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『外国人研修生殺人事件』を読んで [外国人労働者問題]

日教組教育研究全国集会では他の出版社とも協力して販売を行った。
そんな仲間の一社である七つ森書館のY氏から一冊の新刊本を買った。
2006年夏、木更津で起きた中国人研修生による殺人事件。
この事件の実態を探ることにより、この国のおぞましい姿が見えてくる。
集会が終わり、同業他社は九州各地へ営業に散っていった。
宿泊地である別府翠山荘にひとり残った私は、ロビーで静かにページをめくっていった。
一気に読み終え、煙草に火をつけると深く息を吸い込む。
時計はちょうど2月13日午前0時を指していた。

黒龍江省チチハルから研修制度を利用して木更津の養豚場にやってきた崔紅義。
家族を養い、兄弟を大学へやるのがその目的だ。
貧乏のどん底から抜け出す手段として、外国人研修・実習制度は高い人気がある。
そんな26歳の青年が、千葉県農業協会の常務理事、越川駿を刺殺してしまった。

新聞というものは、そのまま字面だけ読んでも、事実は何も見えてこない。
「中国人研修生がトラブルから日本人を刺殺した」という「事実のひとつの側面」しか見えてこない。
短絡思考の現代人はそこに多くを感じない。
自分のことにしか興味がないから、世の中の許すまじ現実に気づかない。
これが裏社会など、表に現れない事象となると、信じられないほどの幼稚ぶりだ。

「日本は平和でいい国です」などと聞くと、私は正直、かなり苛立つ。
子ども顔負けの幼稚な大人があまりにも多い。
評論家の佐高信氏は「巨悪に対する想像力」とよく言われる。
現代の日本人に一番欠落しているのはこれである。

自殺が未遂に終わった崔紅義は、木更津拘置支所で罪を悔いている。
しかし私は当初から、彼が悪いとは全く思っていない。
人を殺すのは悪いことかもしれない。
しかし彼を殺人を起こすまでに追い込んだものは何だ?
巨悪はどこにいる?

ジャーナリストの安田浩一氏は黒龍江省に飛ぶ。
崔紅義の実家をたずね、関連機関に片っ端から取材を試みる。
日中両国での取材をもとに真相を明らかにしていく。
そしてそこには、外国人研修・技能実習制度を取り巻く、世にもおぞましい現実が横たわっていた。

「プロローグ」より、安田氏の文章をご紹介したい。

 日本はいま、“格差社会”や“ワーキングプア”といった言葉に代表されるように、競争と分断の時代に突入した。公共性という概念は薄れ、弱肉強食の論理が幅を利かせるようにもなった。シワ寄せは富と体力に乏しい中小企業へと向かわざるを得ない。そんな経済政策の無策を補う形で、見えない鎖に縛られた研修生という名の奴隷が、次々と投入されていくのである。
 「コスト削減の切り札」などと研修生の斡旋をPRする業者も少なくない。もはや国際貢献といった建て前すら放棄されているのが現状だ。人間がモノのように“売られて”いるのである。なんと荒涼とした社会になったものか。

この本、すべての日本人に読んでもらいたい。
お願いだから読んでほしい。

          ■

『外国人研修生殺人事件』
安田浩一 著
定価 1,680円   発行 七つ森書館


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コメント 12

めぎ

現実を踏まえてほかの事を想像する意味での想像力はどんどん欠けていってますね。だって、想像力を養うような教育じゃないし、そういう生活じゃないですものね。なんとなく、日本人の生活は、生活そのものにリアリティがないというか、バーチャルの中で生きている感じに見えます。例えばテレビの情報ばっかり見ていて、それで物事の価値判断をする。それは、想像の世界で生きているってことで、現実感が無い。(納豆ダイエットなんて、現実的に経験から考えればありえないですよ。)だから、本当の意味での想像力が育たない、という感じがします。想像力は、現実の世界あっての想像力なんですから。巨悪の想像力が無いっていうのは、巨悪に呑み込まれて浮いているってことじゃないですかね。
by めぎ (2007-02-16 02:19) 

リス太郎

めぎさんへ
現在、日本には約16万人の外国人研修生・技能実習生がいます。彼ら彼女らの待遇は一律ではありませんが、常軌を逸した環境・条件で働かされているのは間違いありません。そして中には暴行や性虐待など、絶対に許せない犯罪が横行しているケースも報告されています。そこには日中双方からの搾取が渦巻いています。強制送還されると借金地獄に陥るので不当な事態にも声を上げにくい。そこにつけこむ受入れ業者。私が岐阜で研修生・実習生たちと働いていたのは90年代半ば。時にはいっしょに肉体労働で汗を流しました。よくわかりませんが、当時はまだよかったような気がします(私が知らなかっただけかもしれませんが)。90年代後半から人権侵害の数々が報告されるようになりました。そして今、この最悪な時期に、経済界は更なる「緩和」を要求しています。企業の活動に国境がないのに、なぜ労働者の移動が制限されるのでしょう。おかしな話です。すべては単純労働に従事する移民を受け入れていないことに原因があります。日本人が誰もやりたがらない仕事、誰もやらなければ社会は成り立ちません。そこに不法入国の外国人や、「合法」(雇う側は不法なことばっかりしてるが)な研修生・技能実習生への需要ができるのです。日本で働く外国人の人権を守ること、生活を守ること、それは日本国籍を有する者の責務でしょう。そういったことが果たせてはじめて、「美しい国」とか「国を愛する」とかいう話が出来るのだと思います。
by リス太郎 (2007-02-16 03:42) 

めぎ

リス太郎さんのおっしゃること、その通りだと思います。私は日本に美しい国でいてもらいたいし、日本を愛していたいから、私が出来ることを責任果たしていかなきゃ、と思っています。確かに私にできることは限界があるけど、少しずつでも。ま、私が何を美しいと思うかはちょっとあべさんなどとは違うみたいですけど。
私が言いたかったのは、そういうとんでもない犯罪が行われている現実を「現実」として見る力が日本人に失われているので、巨悪への想像力は持ち得ないのでは、ということです。美しさは醜さがあってこその美しさだし、愛情は憎しみと表裏一体なのですが、裏の部分を見る力が無視されているというか、まるで裏の汚い部分がないかのように思っている人が多いように見えるのです。そういうのは、ドイツ人からは不思議とあまり感じないのですが。
ドイツもごみ収集とか、掃除とか、工事現場とかは、外国人労働者です。街を歩けば外国人労働者がうようよしてます。地続きで国境を何カ国とも接していますから、労働者の移動は止められませんね。EUがどんどん拡大してますしね。だからまあ、研修生なんていう変な制度を作らずとも合法なんでしょうが、労働条件の格差や経済的格差は全然縮まらないようです。たとえドイツ人としてパスポートを持っていても、外国系の人は貧乏が多いです。外国系ドイツ人が大学に行きつつ苦労して働いている話もよく耳にします。裕福なドイツ人学生が親にお金出してもらってぬくぬくと授業中に金髪の彼女といちゃいちゃしているのを横目に、夜通しタクシー運転手をして疲れきって宿題をしないできて私に怒られるトルコ系学生、内心気の毒です。ドイツでは小学校の頃からそういう格差を目にして育ってきているので、誰も現実に蓋ができないのだと思います。
by めぎ (2007-02-16 05:21) 

リス太郎

めぎさんへ
先のコメントへの返事は、この記事を読んでくれている人すべてに読んでいただきたく、それ故、めぎさんへの返事になっておりません。めぎさんが指摘しておられるのは現実への無関心と想像力の欠如です。人はみな成長と同時に、自分の世界を外へ広げていきます。そこで他人の痛みを知ったりするわけですが、そういう機会が少なくなってきているとしたら残念なことです。めぎさんのように外からこの国を眺めると、おかしなことだらけであることに気づきます。もちろん外国が何でもいいわけではないし、日本特有の事情もあります。しかし日本は世界有数の先進国、経済大国として、国際社会における責任を全く果たしていない。それどころか、多くの外国人差別を内包し、人権侵害に対し事実上放置状態です。私の記事に反論してくれる人は、全員とは言いませんがそういったことに対する視点が見事に抜け落ちています。
by リス太郎 (2007-02-17 07:55) 

安田浩一

ご紹介を頂きました本の著者です。ごていねいな解説に、心から感謝いたします。ありがとうございました。本来であれば私信にてお礼申し上げるのが筋かと思いますが、なにとぞお許しください。2月19日、崔君の初公判が千葉地裁木更津支部でおこなわれました。検察側は冒頭陳述で「被告は明確な殺意を持って、殺人を犯した」と主張しました。対して崔君は「殺意などなかった。強制帰国させられるのがイヤで、そのうえ自殺したかったのに止められたので、興奮して暴れてしまった」と答えました。私も「殺人」での立件には無理があったと考えています。今後の公判では、事件の背景に関して、弁護側が事細かに言及していくものと思われます。ご挨拶を兼ねて、ご報告させていただきます。
by 安田浩一 (2007-02-20 15:53) 

リス太郎

安田浩一様
びっくりしました。嬉しいです。私の一番関心のあるテーマであるのは間違いないのですが、それにも増して力強い文章にずるずると引き込まれるように読み終えました。これは記事にせなあかんなと。安田様には弊社の『外国人研修生 時給300円の労働者』でも文章を書いていただいているわけですが、外国人労働者問題は私の最も関心の強いテーマです。これからも読者をぐいぐいと引きつける文章を期待しています。
by リス太郎 (2007-02-20 21:19) 

FF

今、録画していた「とくダネ!」を見て、すごく怒りを感じています。私はこの事件を耳にした時、福岡の一家惨殺事件のような中国人犯罪が頭に浮かび『また、簡単に稼げると思い込んだ中国人が、ひどいことしたんかぁ。もう、日本に来んといて欲しいわぁ。』と、感じただけでした。  
本当にひどい!相手の弱みに付け込んで、ありえないような低賃金でこき使うなんて。そもそも、養豚所の仕事が研修とよぶに値するものなのか、ただの労働力としてみているのではないか、非常に疑問(というより、ほぼ確信。)です。受け入れ先が渡航費用を負担するシステムからして、これが、国家的国際貢献なんかじゃぁまったくないことが見え見えじゃないですか?こんなことにかかわっている日本人は、恥ずかしいから、即刻この国から出て行ってほしいくらいです。(「殺されて当然やわ。」と感じた。)今、心から気の毒な中国の方々に申し訳ない気持ちでいっぱいです!
by FF (2007-07-20 20:44) 

リス太郎

FFさんへ
そうですよね。私もあなたと同じ気持ちです。この国で起きている事実なのに「知らない」ということを恥じる気持ちを忘れたくない。ただ、この問題をめぐる私の関連記事でも書いてきたように、いろいろな問題を内包しています。制度をいったんなくしてしまうことが私の主張ですが、それだけでは何も解決しない。海外からの単純労働者を必要とする日本の産業界と、豊かな日本で働きたい途上国の若者たち。魚心あれば水心で、制度がなくなったところで流れは止められない。犯罪組織の活動がより活発化するだけです。移民制度を早く整え、外国人市民の人権を保護すべきです。もし移民はどうしても駄目だと言うなら、外国人労働者を非正規滞在さす組織を片っ端から摘発すべきです。偽装結婚も許さないことです。ただし今すでに日本で生活している外国人には権利を認めるべきです。日本経済が地盤沈下することも甘んじて受け入れるべきです。
by リス太郎 (2007-07-20 23:32) 

FF

私はこの問題については、異なる考えを持っています。まず、「知らないことを恥じる」という見方ですが、それは、私たちの無関心や想像力の欠如に最大の原因があるとは思っていません。ここ十年くらいでしょうか。インターネットが拡がり、様々な情報を入手できるようになったとは言え、たかだか数十年の寿命しかない人間が日々生活を営むなかで、触れることのできる情報量には限界があります。私は、週に約20本(40時間強)のドキュメンタリーや報道・報道バラエティー番組を録画し、主に国際や時事をひろいながら見ていますが、この問題を取り上げたのは「とくダネ!」だけでした。話しはとびますが、私は、太平洋戦争になだれ込んでいった最大の原因も、歴史的事実としては、軍部の独走がその第一歩だったとしても、それを容認し、もしかしたら後押しする世論が国民全体にあったのではないかと想像しています。そして、そのような“イケイケどんどん”という風潮は、大衆の注目を引きつけ、迎合する記事を流し続けたマスメディアとの相乗効果の結果ではなかったかと。「鶏と卵」論かも知れませんが、私は、マスコミこそがまず第一に、たとえとっつきが悪くとも、重大な問題を広く国民に知らしめ、啓蒙する社会的使命を果たすべきだと考えています。
私が、テレビ報道その他にこれほど目をひからせるようになったのは、拉致問題以降です。様々なことが明るみに出るなかで、それまで、いかにマスメディアが、国内の朝鮮半島勢力にほおかむりをしてきたかを知り、慄然となりました。私は無関心だったのではなく、知らされなかったのです。今回の問題は、マスコミがわざと避けたのではないと考えていますが、今後徐々に他のメディアもとりあげ、表面化していくだろうと期待しています。そして多くの国民がこの事実を知った時、「そんなんどうでもいいやん。」などと感じるような人々で、日本がなりたっているとは、私は考えておりません。その他「移民制度」等に関しても、私の考えとはちがっていますが、あまりにも長くなったので、このくらいにしておきます。
by FF (2007-07-23 11:30) 

リス太郎

FFさんへ
テレビもいいですが本もお読み下さい。また、自分の目で確かめてください。いくら報道番組を見ても真実はわからないと思いますよ。拉致問題にしたって、多くの人は2002年の日朝首脳会談で驚いたようですが、私が高校生のころ(1980年代前半)から友達同士でそういう話をしてました。知らないことは仕方ない部分もありますが、それは国際社会では通用しませんよということ。「知らなかった」で許されるのは子どもだけです。無知は罪であること。それは大人の常識です。
「移民問題」に関するお考え、是非お聞かせ下さい。
by リス太郎 (2007-07-23 22:47) 

FF

私が本を読まないと決め付けておられること、非常に残念です。(実は、元編集者です。)ただ、別の見方をしていることを伝えたかっただけなんですが、不快な思いをさせてしまったみたいですね。ごめんなさい。
私がテレビを注視しているのは、そこからすべての情報を得ようとしているのではなく、この媒体が、一般大衆に対して、最大の影響力を持っているからです。テレビ報道によって問題が白日のもとに曝され、大衆の知るところとなった時こそ解決への流れが生まれるだろうと期待しているからです。(この件についても、いくつかの番組でとりあげてくれるよう、要望を出しました。)だからこそ私はメディアが、何をどのように取り上げ、また、何を避けているのか、そしてその理由は何なのかを知りたいと思っています。
こんなことを競い合っても無意味だとは思いますが、拉致問題自体は、二十数年前でしょうか、最初に取り上げた雑誌の記事(日本海で連続アベック失踪の怪。工作船の影…。)を読んだ一人でもあります。私はその時の状況が、湧き上がった疑念とともに、今も心に焼き付いています。そしてこの大問題は、その後大きく取り沙汰されることもなく、長い年月が過ぎてしまった。私が慄然としたのは、テレビに限らず、言論の自由を声高に叫びながらも、メディアが圧力に屈し続け、触れないでいる諸対象の存在を目の当たりにしたことです。書籍に関しても、私は、著者の主観・その他が入っていることを前提に、経歴や思想的背景を調べた上で読むようにしています。
私には「無知は罪だ」と糾弾する勇気はありません。この本を読む前のあなたや「とくダネ!」を見る前の私は、この世界には無尽に存在しているのです。もしこの考えを、世界の諸問題にあてはめたとするならば、全人類が一人残らずその罪びととなってしまうでしょう。そうなれば、私は自分自身を恥じると同時に、まわりの人すべてに批判の眼をむけなければならなくなります。私は、そのような傲慢を自分自身に許すことはできません。もし私が自分を恥じるとすれば、知っておきながらも、無感覚な人間となった時です。同時に、そのような人間を友人と感じることも、私にはできない。幸い、そういう友人は一人もおりませんが…。
「移民問題」に関しては、うまく伝えられる文章力が私には無さそうなので、控えることにします。
by FF (2007-07-24 11:36) 

リス太郎

あっそう。
by リス太郎 (2007-07-25 00:29) 

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