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デンソー事件と温家宝首相来日の微妙な関係

今週水曜日(4月11日)から3日間の日程で、中国国務院総理の温家宝氏が来日する。
6日には安倍が中国中央テレビ(CCTV)のインタビューに応じ、具体的成果に意欲を示した。
中国共産党中央宣伝部は国内報道機関に対し、日本について積極的に報道するよう指示を出した。
これがどういう風の吹き回しなのか、私の記事を定期的にチェックしてくれている人はお気づきだと思う。
記事にするネタはありすぎて困るのだが、在日華人向けの新聞にこんな記事を見つけた。

「温家宝訪日漂暗雲 “華人諜影”炒作何時休?」

4月8日付け日本新華僑報の一面トップである。
「温家宝訪日に暗雲 “華人スパイ”のデマはいつ止むのか?」と書いてある。

13万件のデータを持ち出した容疑で逮捕されたデンソーの中国人技師の話。
楊魯川氏は3月16日、愛知県警に逮捕された。

楊氏は中国の大学を出てから来日するまでの間、中国航天工業総公司に勤めていた。
この公司は宇宙開発を担当する国家機関、中国国家航天局(CNSA)と協力関係にある。
航天局の政策を運営する国営企業であった。 (現在はいくつかの公司に分割されている)

また楊氏は、2005年10月に設立した「在日華人汽車工程師協会」の副会長だった。
「汽車」とは自動車のこと、「工程師」とは技師のことである。
そういったことが憶測を呼び「スパイ騒ぎ」となった。
前者はともかく後者の何が「スパイ」につながるのか皆目わからない。

当記事を書いた林近秋記者は、デンソーが「持ち出されたデータが輸出規定に違反しておらず、軍事転用できないものである」と表明しているにもかかわらず、読売新聞が中国政府の機関に漏洩したかのような報道をしていることに対してかなり怒っている。
そして日本のメディアの報道姿勢に対し、厳しい注文をつけている。

楊氏が航天工業に勤めていたのは80年代の話。
1990年に来日し、日本の大学に入りなおしている。
この事件に関し、私は朝日と日経しか読んでいない。
読売が何を書いたのか知らないが、部数を伸ばすために記事を「創作」することはどの新聞にもある。
テレビの報道番組は特にひどい。
「創作」と「捏造」のどこがどう違うのか教えてほしい。

林記者の記事で面白いと思ったのは、去年の「章健事件」との比較を試みていること。
去年(2006年)3月28日、「中国平和統一促進会」副会長でコンサルティング会社社長の章健氏が逮捕された。
容疑は入管法(出入国管理及び難民認定法)違反。
中国人の在留資格不正取得を幇助し金銭を受け取っていた疑い。

林記者はいつでも逮捕できた章健氏を尾行しまくり、3月末を待って逮捕したと主張する。
3月31日に胡錦濤主席は北京で日中友好七団体会長一行(故・橋本龍太郎元首相ら)と会見している。
おかしくないかというわけだ。

当時、日本の警察は中国外交官への諮問を要請し、メディアも中国政府部門との関係を騒ぎ立てた。
しかし7月、東京地裁は入管法違反で懲役1年、執行猶予3年、罰金50万円の判決を下した。
途端にメディアはトーンダウンしたという。

「在日華人として、楊魯川、章健が日本の法律に違反した、その行為は在日華人全体のイメージを損ねるものであり、この点は弁解の余地がない。しかしいかなる事件であれ、事実に基づき法を規範とすべきである。公正で客観的であることを標榜する日本のメディアだが、その捏造体質は明らかに問題である」
全くそのとおりだと思う。
ちなみに「標榜」という中国語は貶義語である。

林記者は楊魯川氏の事件や、3月30日に明らかになった中国人の奥さんがいる自衛隊員が護衛艦情報を持ち出した事件などを挙げ、温家宝首相訪日との関連を疑っている。
なるほど、温家宝首相の来日を阻止したい一部の勢力はある。
しかし去年のこの時期と今とでは状況が全く違う。
小さないざこざは街中であるだろうが、おおむね穏やかな雰囲気で日程はこなされていくであろう。

温家宝首相は当初4日だった日程を3日に短縮した。
これは中国内部の「愛国者」に配慮したものである。
「中国を敵視する奴らがいる日本にそんなに長く何しに行くんだ」と言われたくないだけである。

日中の懸案事項は主に3つ。
エネルギー、環境、朝鮮半島である。
しかし本当の目的は「経済協力」のための「友好」の確認である。

ちなみにデンソー事件の楊魯川氏は4月6日に釈放された。
事件の背景やデータの流用先がはっきりしないまま、捜査は事実上終結だという。
日本新華僑報は10日に1回の発行なので、編集に間に合わなかったのだろう。


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コメント 7

リス太郎

コメントないけどアクセス数はすごいね。
by リス太郎 (2007-04-12 03:32) 

もん

周知既知のことでも、あまりに要約されすぎてて、話の筋がよう読めん私のようなのは、「先生!分からないところが何処なのかが分かりません!」で、コメントしようがないんです・・。おやすみ。
by もん (2007-04-12 03:40) 

リス太郎

記事に言葉の足りない部分があったようなので補足します。林近秋記者は温家宝首相来日を控えて「中国バッシングが起きている」と指摘している。デンソー事件がこの時期に持ち上がったのは政治的な意図があるのではと言いたいようだ。しかし私は林記者の日本のメディアに対する批判には同調するものの、今の日中関係は大きく状況が変わったことを指摘している。楊魯川氏が単に過失だったのか、あるいは何らかの組織とつながった犯罪だったのか、私には何とも言えない。しかし楊氏釈放のニュースをみてもわかるように、「政治的意図」は逆の形で働いていると思う。
by リス太郎 (2007-04-13 08:04) 

林近秋

林近秋です。私の記事を評論いただいて、ありがとうございます。かなり客観的な評論と思います。これからもよろしくお願いいたします。
by 林近秋 (2007-04-20 16:37) 

リス太郎

林近秋様
コメントありがとうございます。貴殿の記事は力強く説得力がありました。全文訳して掲載したいぐらいです。ところで今、発売されている「週刊ポスト」に私と同じ指摘をしている記事を見つけました。しかし読んでみると偏見だらけで誤解を招く内容。批判文を掲載したいと思います。
by リス太郎 (2007-04-21 05:26) 

林近秋

リス太郎様
  コメントありがとうございます。「週刊ポスト」は読んでいませんですので、早速調べたいと思います。これからもリス太郎様のご高見を期待いたします。
by 林近秋 (2007-04-21 10:19) 

リス太郎

林近秋様
よろしくお願いします。中国に関する記事も多いので厳しいチェックを期待します。
by リス太郎 (2007-04-22 07:32) 

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