アミネ・カリルさん一家帰国に思う [外国人労働者問題]
4月26日(木)午後、アミネ・カリルさん一家は長女マリアムさんを残し、イランへ帰国した。
次女シャザデちゃんの通う高崎市内の小学校ではお別れ会があった。
「イランへ帰ったら『日本人はこんなにも優しくしてくれた』と伝えたい」
先日15日の感謝の集いで妻のファロキ・アクラムさんはこう語った。
しかしイランへ帰国する夫妻と次女の前途はいたって厳しい。
入管法違反以外に何の罪もない家族を引き裂く日本の司法と行政について考えたい。
1990年5月に短期滞在ビザで入国したアミネ・カリルさん。
翌年には奥さんと長女も呼び寄せ、日本で次女も生まれた。
日本では中古車販売や家屋解体の仕事をしてきた。
当時の日本社会はアミネさんのような労働者を必要としていた。
搾取する側とされる側の利害が一致していた。
オーバーステイによる不法滞在の外国人たちは、日本に生活の基盤が固まると「これではいけない」と考える。
意を決して入国管理局に出頭した。
在留特別許可というものは申請してもなかなか下りるものではない。
社会的な関心を高めるため、私や私の会社の仲間たちもささやかな運動をした。
しかし結局、短大に進学が決まっている長女マリアムさんにしか認められなかった。
短大に通う2年間だけであるが。
朝日新聞ではアミネさん一家帰国のニュースを26日と27日の朝刊社会面に写真入りで掲載した。
たまたま別の記事が読みたくて買った27日の読売新聞朝刊でも社会面で取り上げていた。
残念なのは在留特別許可が認められなかったことへの批判や問題点の指摘が全くないこと。
朝日新聞には今後、在留特別許可をめぐる特集記事を期待したい。
在留特別許可は法務大臣の裁量により実施される。
アメリカやフランスにもあるが、一定の基準が定められている。
日本には明確な基準というものがない。
結局は時の法務大臣の考え方次第ということになり、下手に申請すれば自分で自分の首を絞めてしまう。
現在、日本では、年間1万人以上の人の在留特別許可が認可されている。
しかしそのほとんどは日本人の配偶者である。
日本では非正規滞在者でも日本人との婚姻が許可される。
入国管理局に申請し、偽装結婚などでないことが証明されれば(在留特別許可は)最近は比較的下りやすい。
問題なのはアミネさん一家のような外国人ばかりの家族。
認められるケースは非常に少ない。
退去強制処分となってしまう。
入国管理局に出頭していても警察に見つかれば逮捕される。
行政手続きと刑事処分は別だからだ。
怯えながら暮らす日々を想像してほしい。
昔は非正規滞在者にも生活保護の医療扶助が準用されていた。
しかし1990年、通産省(当時)による一方的通達で停止された。
病気が進行し、取り返しのつかない状態で病院にかけこむ例が後を絶たない。
理屈ではなく今すぐ何とかしなければならない問題は多い。
癌が進行する日本人の妻と引き離され、見舞いのための入国もなかなか認められない。
同棲していた日本人男性の子どもを身ごもった興行資格のフィリピン人女性。
逃げた男は子どもを認知せず、子どもを連れて一時帰国してからは子どもの入国が認められない。
入管法違反、それもオーバーステイというだけの罪でここまで人権が侵害されるのは許しがたい。
社会ルールに著しく違反した者でもないかぎり、積極的に在留特別許可を認める基準を作るべきである。
基準というのは退去強制となった場合、本人や家族の基本的人権が損なわれる可能性があるということだ。
死刑が大好きな長勢甚遠でなければもっと違った展開が期待できたであろう。
境界線は境界線であって、人様の領域に土足で踏み込んでいい、ということには、やっぱりならないだろうと思う。境界線を作る側にも、どこにどのような境界線を作るかという基本的人権があるからだ。
でも、その境界線の内側へ引き込む状況を内側のほうで作っておきながら、ある日突然「あんたここが境界線だったんだから出ていきな」というのは、人権を履き違えている例であろう。
私のドイツ人女性の知り合いに、日本人との間に子供がいる人がいる。彼女はドイツ語の先生として日本に10年くらいいたのだが、生徒と恋に落ち、子供ができた。しかしその生徒は結婚する気も認知する気も全くなく、実家に逃げ帰り、実家はそのドイツ人からの電話や何やらを一切拒否した。
そのドイツ人女性は、日本での生活を打ち切り、ドイツへ戻ってきて、一人で子育てしてきた。子供は今、10歳くらいである。
日本名をつけられたその子供はもちろん、パパを知らない。日本語も出来ない。
この例は、相手がドイツ人の相当インテリな女性だから、一人で何とかできたし、彼女がそのまま日本にいたいと思ったら手続き上も何の問題も無かったし、身の危険も養育の問題も無かった。しかし、それで日本人男性の責任が軽減されるわけではない。彼の認知が無ければ、この子供は日本人にはなれない。日本にもいられない。それに引き換え、ドイツという国は、こんなけしからん外国人男性の子供をドイツ人として受け入れ、人権も侵すこと無く、何不自由なく育てている。
子供が父親を持つ権利を、日本人になる権利を、このまま奪っておいて良いものか?
この子供にはもちろん日本のパスポートは無い。ドイツ人として日本へ旅行すれば、入管で拒否されることも無いであろう。しかし・・・
ちょっと話がずれてしまったが、私としては、入管云々の問題と平行して、日本人男性にもう少し責任感を持ってもらいたいと思うのである。もちろん、子供は、男性だけの責任でできるものではない。女性もその責任を負う義務がある。でも、外国人を相手にして逃げる日本人男性には、外国人のもののようにしか思ってないんじゃないか、と思われることがある。基本的人権という概念が、すっぽり抜け落ちている。人権は、あなたの精子(または卵子)から生まれた子供にも、あなたと同じだけの重さで存在しているのだ、ということを、そして、例え日本人の血が入っていなくても、そこに存在しているすべての人に、平等にあるのだということを、今一度考えるべきだと思う。
by めぎ (2007-04-28 17:48)
めぎさんへ
冒頭のご意見に同感です。またお知り合いのドイツ人女性のお話も興味深く読みました。さて、日本人男性の責任感。私はそういう「間違い」を犯したことももめたこともないですが、襟を正す思いです。めぎさんが指摘することに関連したテーマ(人身売買と日本人男性の買春)で記事を書こうと準備中です。まだ調べ足りない部分も多いので今しばらくお待ち下さい。
by リス太郎 (2007-04-29 00:32)