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飢餓人口をますます増やす「バイオエタノール」

非常に気に食わないことがある。
ここ数日、毎日のように繰り広げられる「バイオエタノール」をめぐる報道である。
果汁飲料やマヨネーズなどが値上げとなり、牛乳や畜産品もいずれ値上げになるという。
しかしこの問題の重大さは「日本人の食卓と家計にあたえる影響」などではない。
第一に飢餓人口の増大を、第二に食糧安保が崩れることによる世界各地での紛争を心配すべきである。
そして、「世界の農業を牛耳っているのはアメリカだ」ということをもっと自覚して報道をすべきである。
幼稚な報道しかできない産経新聞や日本テレビなどなどは、日本経済新聞の姿勢をみならってほしい。

「みなさんが食卓で使うマヨネーズが値上がりしましたよ」
そういったレベルでしかこの問題を語れないとしたら、実に情けなくおめでたい国民である。

2006年1月、アメリカ大統領のブッシュは一般教書演説で、ガソリンの代替燃料としてエタノールの拡大を表明した。
石油への依存度を減らし、二酸化炭素の排出量を削減できるのがメリットだという。
私はこの時点で「怪しい」と思ったのだが、それは後述する。

バイオエタノールはサトウキビやトウモロコシなどから作られる。
今年2月下旬、シカゴ市場のトウモロコシ期近価格が4.3ドル台半ば(/ブッシェル)にまで高騰した。
これは去年(2006年)8月の約2倍である。 (6月5日のシカゴ7月限月は3.8025ドル)

トウモロコシは世界人類の主要食糧だが、同時に家畜、家禽の飼料としても重要である。
家畜の飼料が高騰すれば畜産品の相場も上がる。
牛乳や畜産品の値上がりの原因となるだろう。

そしてアメリカの穀倉地帯では大豆からトウモロコシへの転作が進んでいる。
中国からの大豆輸入が急増し、大豆や菜種から作る食用油が急騰。
これがマヨネーズの値上げにつながっている。

また、ブラジルではサトウキビが高く売れるというので、オレンジなどの畑をサトウキビに転作している。
果汁飲料値上げの一因となっている。

5月27日付け産経新聞朝刊は、「食品高騰・・・・エコ社会の代償」と題し、「バイオエタノール」の需要拡大による食品の値上げを報じている。
しかし世界規模での飢餓や食糧安保を危惧する頭は記者にはないらしい。
読者と自分のふところ具合、自分たちの胃袋のことしか心配できない。
これは産経に限らず、他の新聞社やテレビ局も大体そうである。

そもそも、なぜアメリカは「バイオエタノール」などと言い出したかだ。
ミネアポリスに本社のあるカーギル社は世界最大の穀物メジャーだ。
世界の農業はカーギルとその一族に牛耳られているのである。
年商500億ドルとも言われるこの会社、驚くなかれ非上場である。

遺伝子組み換え作物に対する欧州各国の拒絶は、アメリカにとって実に忌々しいものであろう。
そしてアメリカのカーギルやモンサントは、実に卑劣な手段で貧しい農民を苦しめている。

↓ 参考記事 「ヴァンダナ・シヴァ 『食糧テロリズム』 を読んで」 2006年12月31日
http://blog.so-net.ne.jp/jpdragon/2006-12-31

「バイオエタノール」の需要が伸びることにより、カーギルが牛耳る穀物を間接的に世界に輸出できる。
しかも価格は高騰する。
操り人形のブッシュは逆らえない。

最後に4月14日付け日本経済新聞朝刊の特集記事をご紹介したい。
米国アースポリシー研究所所長のレスター・ブラウン氏へのインタビュー。
非常に重要なことが述べられているので、インタビューの部分だけだが全文掲載する。

         ■■■

 ――米国では「脱石油」を掲げたブッシュ大統領の方針を引き金にエタノールブームが起きています。
『トウモロコシを使って自動車が走るのはすばらしいことだと米国人は以前から考えてきた。中東の石油に頼らなくて済むからだ。コーンベルト地帯の州政府を中心に、米国はエタノールの利用を後押しし、1978年の立法によって国はエタノールの生産1ガロン(3.785リットル)あたり51セントの実質的な補助金を出すようになった』
『ただ、当初は生産の上昇率は極めてなだらかだった。今はほとんど垂直のこう配で伸び、工場への投資は熱狂と呼んでいい。このままだと来年、米国で収穫するトウモロコシの半分はエタノールに向かうだろう』
 ――どのような影響が出てくるのですか。
『冷蔵庫のドアを開けてみればいい。肉、牛乳、卵、チーズ、ヨーグルトにアイスクリーム。みんな元をたどればトウモロコシを飼料にした動物から作る。これらの食品もトウモロコシ相場が上がれば、時間差があるにしても値上がりする。やがて小麦や米のような穀物も上がる。最後は見たこともない高値がつくだろう。食糧安全保障にとって大きな懸念だ』
 ――ガソリンの代わりにエタノールを使う戦略が問題なのですか。
『大型車のガソリンタンクをエタノールで満タンにするには人間一人が一年に食べる穀物が必要だ。すべての穀物をエタノールに代えても米国の自動車の燃料需要の16%程度しかカバーできない』
『つい最近まで連邦政府はエタノール生産に実質的な補助金を出す財政当局として目を光らせていた。ただ工場の免許を出すのは連邦ではなく州だ。原油相場が1バレル60-70ドル、ガソリンが1ガロン3ドルに値上がりし、エタノール生産で短期的な利益を稼げるようになると、州は企業の攻勢に押され、コントロールがきかなくなった。私は新工場の免許停止を要求する』
 ――現状を放置すると、世界にはどのような影響が及びますか。
『地球全体でみると、自動車に乗る8億人と、極めて貧しい生活をする20億人が同じ穀物を巡って争っている。自動車を持つ人の年収は3万ドルぐらいあるのに、収入の半分を食費に使う貧しい層の年収は3千ドル以下だ。極めて不公平な競争だ。この争いへの対策を講じる国連機関はない。市場がただ機能しているだけだ。市場は人々の飢餓を心配しない』
 ――米国のエネルギー戦略が世界的な穀物の奪い合いを起こす恐れがあると。
『それだけにとどまらない。水の問題も生じる。1トンの穀物を作るには1千トンの水が必要だ。水をそのまま輸入するよりも穀物の形で買うほうが効率的だ。豊かな国は穀物をどんどん買うようになり、貧しい国は買えなくなる。未来の戦争は石油よりも、穀物を通じて水の奪い合いになる可能性が高い。水を巡る戦争の力は軍事より資金だ。我々は農業、工業、都市のすべてのレベルで、水を効率的に使わなければならない』
『中国の北半分は文字通り干上がろうとしている。インドも多くの州で地下水の水位が下がっている。人口急増で農業の灌漑に使う水が増えているからだ。米国も南部の大平原(グレート・プレーンズ)の地下水位の低下が目立つ。50年代に人口増加が問題になったとき、日本の米も含めて農産物の生産性を上げたように、水の生産性を上げなければならない。下水のリサイクルももちろん重要だ』
 ――エタノールの増産を凍結しただけでは石油に頼る構造は変わりません。代案はありますか。
『過去の石油の時代を大きく変える新しいやり方が必要だ。米国ではエタノールの代わりに期待できるのはプラグ式ハイブリッド車だ。夜間に車をコンセントに差して充電しておく。短い距離の買い物は電力だけの走行でほとんど賄える。日常使用する電力には安く供給できる風力発電を使えばよい』
 ――米国では環境問題への危機感がまだ薄いようです。
『米国で気候変動に危機感が持たれたのはハリケーン、カトリーナの被害が大きく影響している。人々が問題に気づけば、次の大統領選は環境やエネルギーへの対応が初めて真剣に話し合われる選挙になるだろう』
『歴史上、食糧とエネルギーの経済は別々に存在してきた。今はふたつの間に線を引けなくなっている。これが新しい大問題だ。米国の石油の不安を減らそうとして、世界的な食糧の不安を招いている。そこに水の不安が結びつく。このような連鎖構造を理解すべきだ』
 ――代替エネルギーの開発を別にすると、地球温暖化対策については温暖化ガスの排出枠を売買する排出権取引と、税の活用に議論が分かれているように見えます。
『多くのエコノミストは税制の再構成を支持している。しかし、どちらかではなく、両方を使うことが重要だ。所得税を下げて環境税を上げる税制改革を徐々に進めるべきだ。環境税には様々な手法がある。二酸化炭素(CO2)の排出だけでなくゴミや毒性のある物質の排出に課税してもいい。木材の伐採にかけてもいいだろう。実際、東欧には立木税がある』
 ――日本には何を期待しますか。
『日本はエネルギー効率を高める多くの分野で世界のリーダーとなり、米国も自動車の分野で大きな影響を受けてきた。太陽電池でも世界の先頭を走っている。一方で山が多く、海岸線が長い地形なのに風力の利用はあまり進んでいないのは疑問だ。特に北海道は風力発電に適している。また温泉が多いにもかかわらず地熱発電もほとんど普及していない。アイスランドでは9割の家庭が暖房に地熱を使っている。日本には地熱の利用拡大を促したい』


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roshy

おはようございます。初めてコメントさせていただきますが、なかなか硬派の論調、その珍しさに興味を持って拝読しました。仰るとおり資本主義者は、最終的にはお金で地球を支配しようと思っております。彼らに国土も国境もありません。儲かるものなら何でもお金に換えます。今の民主主義は彼らの金儲けの方法論にしか過ぎません。石油がなくなると大騒ぎをしていますが、イラクでの目論見が外れ、あわてて目先を変えようとしているに過ぎません。所詮我々貧乏人は彼らの手の内でもてあぞばされるしかありません。もっともっと世の中に告発してください。
by roshy (2007-06-07 04:41) 

リス太郎

roshy さんへ
はじめまして。いらっしゃい。
レスター・ブラウン氏のインタビューを打ち込んでたら朝になってしまいました。(笑)
当ブログは特にテーマを決めておらず、故に『森羅万象』と名付けました。硬軟とりまぜた話題を展開するので、関心のある記事を選んでお読み下さい。
有難うございました。
by リス太郎 (2007-06-07 04:51) 

リス太郎

mompeli さんへ
ナイス有難うございます。なぜかこの記事アクセス多い。
by リス太郎 (2007-06-09 02:49) 

リス太郎

あ、もんちゃん、ナイスおおきに。いつの間に来てたの?
なんでこの記事、アクセス多いんやろう。どんどん増えよる。
by リス太郎 (2007-06-09 05:41) 

リス太郎

めぎさんへ
ナイス有難うございます。
by リス太郎 (2007-06-17 10:59) 

 バイオエタノールなんて、貧乏人の食べ物を奪って金持ちが車を走らせるとんでもない計画ではと疑っていましたが、田舎の報道機関ではプラス面のみに報道ばかり。

 リス太郎さんのおかげで、私と同じ事を考えていらっしゃる方がいることを知り安心しましたが、同時に食料を食料として使用できるよう私たちがどう動けば良いか、思案のしどころですね。
by (2007-06-17 17:48) 

リス太郎

alpha さんへ
本当にそうですね。飢餓問題は人類の最重要課題だと思います。しかもその解決方法はそんなに難しいことじゃない。戦争や紛争による飢餓は解決が難しいですが、豊かな国がほんの少し貧しい人々に食糧を分けてやれば済む話とも言えます。マグロが食えないとか騒いでいる日本人は、もっと世界に目を向け世界市民としての自覚を持つべきだと思います。
コメントとナイスを有難うございました。
by リス太郎 (2007-06-17 18:57) 

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