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ヴァンダナ・シヴァ 『食糧テロリズム』 を読んで

農業・環境問題の研究や活動で国際的に高い評価を得ているヴァンダナ・シヴァ。
『食糧テロリズム』という挑発的なタイトルが私の関心を強く惹きつけた。
食品商社で働きながらも多国籍企業の活動に批判的だった私にとって、シヴァが書こうとしたことはある程度推測できた。
いや、推測できたつもりだった。
風邪気味で寒気がする私は毛布を体じゅうに巻きつけてページをめくり始めた。
そのショッキングな内容は私を強く惹きつけて離さず、24時間以内に読み終えてしまった。

原書タイトルは “ Stolen Harvest : The Hijacking of the Global Food Supply ” 。
2000年にアメリカで出版されたのが初出であり、このたびめでたく邦訳が完成した。

「盗まれた収穫」とあるように、世界の農民の98%が生活する第三世界において、1万年以上かけて品種改良された多様な種子が強奪されているのである。
それは多国籍企業によって押し付けられた遺伝子組み換え種子(GM種子)に取って代わられ、そのために貧しい農民たちの暮らしは立ち直れないほどの痛手を受けている。
それがどういうことなのか、是非この本を買って読んでほしいのだが、少しだけ話す。

10万人の自殺者。
これは訳者あとがきで紹介されているのだが、今年、インド政府が発表した数字である。
1993年から2003年の間に遺伝子組み換えBt(バチルス・ツリンギエンシス)綿花の不作で借金が返せなくなり、自殺した農民は10万人以上にのぼると言うのである。
自殺した農民の多くは、農薬会社から借金して購入した農薬をあおって命を絶ったのである。

遺伝子組み換えBt作物は自ら殺虫剤を生産する作物として、1996年以来作付けされている。
殺虫剤の使用を減らすとの謳い文句だったが、それはあらゆる成長段階の害虫に耐性を持たせ、「スーパー害虫」となって更なる殺虫剤の使用を余儀なくされている。

カーギルやモンサントといった多国籍企業は現地政府を買収し、農民に多様な作物の継続栽培を放棄させた。
その手段は1998年にインドで起きたマスタード油への不純物混入事件など、人殺しをもいとわない非人道的なものであった。
強制的に買わされた輸入種子は農業の生産性を上げるものではないばかりか、人びとの生活を更に追いつめることとなった。
それは例えばこういうことである。

ベトナム戦争における枯葉剤で悪名高いアメリカのモンサント社。
モンサント社が開発したラウンドアップ耐性大豆の場合はこうである。
ラウンドアップとはモンサント社の除草剤である。
モンサント社はラウンドアップ耐性大豆を売り込むことによって、自社の除草剤もセットで販売できるわけだ。
貧しい農民はそんな高い除草剤は使えない。
しかし従来の作物は作付けを禁止されてしまっている。
借金してでも除草剤を買うしかないのである。

では、ラウンドアップ耐性大豆はそんなに優れものなのか。
水平遺伝子転移という現象がある。
親から子へと遺伝する垂直遺伝とは違い、まわりの違う生物体に間接的に遺伝する。
遺伝情報の一部が感染したウィルスによって他個体に転移する。
それはラウンドアップに耐性を持った「スーパー雑草」の出現を意味する。
モンサント社は更に強力な除草剤と耐性大豆を開発することにより、新たな商機をつかむこととなる。

農業だけでなく、漁業や牧畜業においても詳細な研究報告がなされている。
第3章盗まれた海の収穫と第4章狂った牛と聖なる牛は実に興味深い。

エビトロール漁船によるウミガメの被害の深刻さには驚かされる。
1999年1月までにトロール網にかかって死んだウミガメは4,682頭にもなると言う。
アメリカの環境保護団体はウミガメ排除装置の使用を義務づける提案を行い、アメリカはそれ以外の方法によって捕獲したエビの輸入を禁止した。
それはトロール漁法による乱獲を正当化してしまうものだった。
アジア諸国は異議を唱えたが貿易の側面しか関心のないWTOはこれを退けた。
結果、海の生物多様性バランスは大きく損なわれ現在に至っている。

エビの養殖がいかに現地人の生活を困窮させているかについて、私はかなりの知識を持っているつもりだった。
しかしこの本を読んで、今まで見落としていた側面がいくつもあることに気づかされた。
BSE(牛海綿状脳症)や遺伝子組み換え作物についても同様である。

シヴァさんはインド人なのでインドでの事実を中心に書いている。
また女性ならではの視点を強く感じる。
南(第三世界)に対する北(先進国)という論考が目立つ。
北は文章を読むかぎり、アメリカやヨーロッパを意識しているように思える。
しかし忘れてはならない。
日本もまた「北」の代表的主要国なのである。

ご存知のように日本は世界中から食糧を輸入している。
国産牛にしたってその飼料は100%輸入品だ。
我々の豊かな食生活の裏で、海の向こうでどんな悲惨な実態があるか想像してほしい。
世界の農業はアメリカの穀物メジャーやモンサントのような化学薬品会社に牛耳られている。
そして我が国の大手商社や大手食品メーカーもその片棒を担いでいるのである。

          ■

『食糧テロリズム』   多国籍企業はいかにして第三世界を飢えさせているか
ヴァンダナ・シヴァ 著
浦本昌紀 監訳   竹内誠也・金井塚務 訳
定価 2,625円   明石書店 発行


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