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日本国憲法は外国人の生存権を保障していないのか [外国人労働者問題]

基本的人権の保障は、権利の性質上、日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、外国人に対しても等しく及ぶ。
では、次のうち、原則として外国人にもその保障が及ぶのはどれか?
答えはひとつである。

1 政治活動の自由
2 わが国に入国する自由・在留の権利
3 再入国の自由
4 地方議会議員の選挙権
5 生存権

          東京法経学院 『行政書士直前模試2007』 より

この問題を家内に出したら聞かれた。
本当に答えはひとつなのかと。
残念ながら答えはひとつである。

答えは「1」である。
外国人の政治活動は政治的意思決定や実施に影響を及ぼさない限りにおいて認められる。
これはマクリーン事件(最大判昭53.10.4)における判例である。

アメリカ人のマクリーンさんは、1969年に1年間の滞在許可で入国した。
1年後に在留期間を更新しようとしたが、ベ平連や安保闘争に参加したことを理由に拒否された。

最高裁の判決は、外国人の人権享有主体性や政治活動の自由は認めたものの、外国人に入国の自由や在留の権利は認められないとして棄却した。

つまり、「1」の政治活動の自由は認めるが、「2」の入国の自由・在留の権利は認めないというもの。

「3」の再入国だが、これは森川キャサリーン事件(最判平4.11.6)を見てみたい。

留学資格で来日し、日本人と結婚した森川キャサリーンさん。
韓国に旅行しようと再入国の許可を申請したら駄目だと言われた。
理由は過去の指紋押捺拒否。
処分の取り消しと国家賠償を請求したが、一審、控訴審、上告審と全て棄却。

指紋押捺拒否運動は1980年代より在日韓国・朝鮮人の間で高まったが、訴訟という手段に訴えたのはキャサリーンさんが初めてである。
その後も在日韓国・朝鮮人たちを中心に運動は続けられ、ついには多くの日本人も立ち上がった。
やっとのことで全廃されたのが2000年4月である。

ちなみに外国人登録証の常時携帯義務は、今も課せられたままである。
ルーツが違うというだけで、生まれたときから日本に住む特別永住者にも義務づけられる。

「4」の地方議会議員の選挙権であるが、1990年に金正圭(キム・ジョンギュ)さんらが起こした訴訟を記憶してほしい。

金さんらは、地方自治法18条と公職選挙法9条が選挙権を日本国籍保有者にのみ認めていること(国籍条項)につき、地方自治における「住民」の直接選挙を謳っている憲法93条に違反していると主張した。
(地方自治法10条は「住民」を「住所を有する者」としており、国籍を問うてはいない)

この裁判は5年後の1995年に最高裁で棄却された。(最判平7.2.28)
判決は憲法93条2項にいう「住民」は日本国民を意味するとし、地方参政権の外国人への保障を否定した。

しかしその一方、「永住者など地域と密接な関係をもつ外国人に地方参政権を与えることを憲法は禁じていない」とした。
これがきっかけとなり、現在では全国の約半分の自治体が在日韓国・朝鮮人に地方参政権を認めている。

しかし答えはバツである。
憲法は許容はしても保障はしていないと解釈されている。

最後に「5」である。
この話をしたかったのだが、長くなってしまった。
生存権。

私の家内が苦しまぎれに選んだのは「5」である。
まさか生存権が保障されないわけないと思ったらしい。

人権とは自由権、参政権、社会権、受益権だと言われる。
このうち参政権と社会権は外国人に保障されていない。
生存権は社会権に含まれており、保障されない。(もちろん保障されるべきだし、憲法は保障していると私は思う)

三省堂新辞林によると、生存権とは「国民が人間らしく生きるために必要な諸条件を国家に請求できる権利」とある。
冒頭の一文を思い出してほしいのだが、はたして生存権は、「日本国民のみを対象としていると解されるもの」に当てはまるのだろうか。

塩見訴訟を見てみたい。(最判平元.3.2)
塩見日出さんは1934年(昭和9年)に大阪で生まれた朝鮮人。
終戦で韓国籍となり、子どものころのハシカが原因で失明した。
1970年(昭和45年)、日本へ帰化し、障害福祉年金の受給を申請したが却下された。
理由は廃疾認定日(1959年・昭和34年11月1日)当時、日本国籍がなかったこと。

訴訟を起こしたが、最高裁の判決は次のようなもの。

「限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許されるべき」とし、「昭和34年(1959年)11月1日より後に帰化によって日本国籍を取得した者に対し障害福祉年金の支給をしないことは憲法25条(生存権)の規定に違反しない」とした。

昭和34年(1959年)11月1日とは、同年に制定された国民年金法81条1項が規定する、昭和11年(1936年)11月1日以前に生まれた人の障害福祉年金受給認定日である。
昭和34年11月1日に日本国籍を有していなかった塩見さんは年金をもらえなかったわけだが、終戦で韓国籍となったのは塩見さんが悪いわけではない。

参考までに申し上げると、全額国庫負担で無拠出だった障害福祉年金は、1961年の国民年金創設により障害基礎年金となり、現在に至っている。

1982年(昭和57年)に国民年金法が改正され、外国人も年金に加入できるようになった。
塩見訴訟の判決があった1989年(平成元年)、既に年金は日本国籍所有者だけのものではなかった。
障害福祉年金は過去のものかもしれないが、血の通った人間まで過去に葬り去る司法とは何か。

1982年に改正された国民年金法では、35歳以上の外国人に加入を認めなかった。
さらに1986年(昭和61年)にも改正があったが、60歳以上の外国人が対象から外れた。
そんなわけで、今も多くの在日外国人(韓国・朝鮮人)高齢者が無年金である。
地方自治体の給付が一部にあるだけで、国は見て見ぬふりかのように私には見える。

外国人への社会保障制度については、西欧諸国、特にドイツが優れているといわれる。
ドイツの事情を読んだり聞いたりするのだが、日本の後進国ぶりがよくわかる。
もちろん日本には特有の事情があり、同じやり方がとれないことも多い。
しかし弱者を救済するのに国籍もなにもないではないか。
それは日本が批准している国際条約に照らしても、決して許されないことである。

厚生労働省の外局である社会保険庁の不祥事。
昨日や今日に大臣になった男のうわべだけの言動。
他に優先すべきことがあるだろうと言いたかったが、とんでもないことになっている。

平成19年度行政書士試験の問題である。

問題6 外国人の憲法上の権利に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例の趣旨に照らして妥当でないものはどれか。

1 国家機関が国民に対して正当な理由なく指紋の押なつを強制することは、憲法13条の趣旨に反して許されず、また、この自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶと解される。

2 日本に在留する外国人のうちでも、永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特に緊密な関係を持っている者に、法律によって地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与することは、憲法上禁止されない。

3 普通地方公共団体は、条例等の定めるところによりその職員に在留外国人を採用することを認められているが、この際に、その処遇について合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることは許される。

4 社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国はその政治的判断によって決定することができ、限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たって、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許される。

5 外国人は、憲法上日本に入国する自由を保障されてはいないが、憲法22条1項は、居住・移転の自由の一部として海外渡航の自由も保障していると解されるため、日本に在住する外国人が一時的に海外旅行のため出国し再入国する自由も認められる。

私は静かにマークシートの「5」を塗りつぶした。
「3」と「4」を塗りつぶせる日が来ることを信じつつ。


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コメント 4

ジャイル

勉強になります!
興味深い記事をありがとうございます。
by ジャイル (2014-09-10 11:47) 

リス太郎

ジャイルさんへ
コメント有難うございます。

生存権については7月に次のような判決が最高裁でありました。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG18H11_Y4A710C1CR8000/

安易に生活保護を受けようとする人が私のまわりにもいて困ってます。でもそれは日本人も一緒なわけで。

ナニ人であれ日本に生活の基盤があり人道的に保護が必要であれば保護すべきです。その一方、悪用はナニ人であれ許さないことです。

by リス太郎 (2014-09-11 21:54) 

リス太郎

最高裁の判決についてですが。

永住権を持たない外国人でも生活保護を受けておられる方はいらっしゃいます。私の周囲にもかなりおられます。ほとんどが人道上仕方ないと思われるケースで、稀に困ったちゃんがいます。

by リス太郎 (2014-09-11 22:00) 

リス太郎

しかしこの記事で取り上げた設問、いま読むと「答え」が「当たり前」に感じる自分の感覚が怖い。

by リス太郎 (2014-09-11 22:01) 

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