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映画『靖国YASUKUNI』を観て

映画『靖国YASUKUNI』をシネカノン有楽町1丁目のレイトショーで観た。
芸術文化振興基金の助成を受けたこの映画、一般公開して何が悪いのか全く理解できない。
非常に見ごたえのあるドキュメンタリー映画で、可能な方は是非映画館へ足を運ばれることをお勧めする。
映画のテーマに関心があるのは勿論だが、もうひとつ私には大きな関心があった。
国会議員を通じ出演部分の削除を求めている刀匠の刈谷直治さんのことが気がかりだった。

映画は李纓監督が10年にわたって取材した、靖国神社で繰り広げられる事実の映像で構成される。
私も正月に靖国神社を見学(参拝ではない)したことがあるので、大体のことは想像できる。
そういう意味ではあまり期待していなかったのだが、引き込まれて興味深く観た。

映像にナレーションは一切ない。
ただカメラがまわり続けるだけだ。
靖国神社を擁護する立場と賛成する立場、どちらに立つかは観客に任せられている。
「どう思いますか?」という無言の問いが聞こえてくるのみ。

終盤近くで「百人斬り」などの写真が数枚、連続して映される。
一部の国会議員や右翼団体員が特に問題視している部分かと思われる。
それは「こんな写真もありますが」程度の見せ方で、何を大騒ぎするのか不思議。
靖国神社で作られた刀がどういうふうに使われているのか、全く触れないわけにはいかない事実である。

この作品を映画として奥行きの深いものにしているのは、靖国神社の神体である「靖国刀」の最後の刀匠、90歳の刈谷直治さんへのインタビューである。
刈谷さんへのインタビューと、刈谷さんによる「靖国刀」の鋳造再現場面。
それらが靖国神社で繰り広げられる映像の合間に挟み込まれる。

刈谷さんへの取材部分がカットされたら、この映画はただのドキュメンタリーでしかないかもしれない。
少なくとも私は、刈谷さんへの取材映像から、靖国神社に賛成とか反対とか、そういった違いを越えたメッセージを感じ取った。

来日19年の李纓監督の質問はいつも抽象的で間接的である。
単刀直入な質問は失礼だと考えたのかもしれない。
私などよりよほど日本人的と言える。

そんな質問に刈谷さんはよく沈黙する。
沈黙の時間は長い。
普通なら質問を変えるのだが、李纓監督はそれをしない。

ひたすら待つ。
観客は刈谷さんの表情から心中を察するしかない。
一言も発せられないまま、画面は靖国神社へと移る。

最初は刈谷さんの沈黙の意味がわからなかった。
靖国神社に不利になる発言を恐れているようにも見えた。
だが、観ているうち、ひとつだけ間違いないと思えることに気づいた。

刈谷さんは李纓監督が中国人であることに配慮している。
戦争で大きな被害を受けた中国から来た李纓監督を傷つけまいとしている。

刈谷さんは李纓監督にある質問をした。
小泉首相の靖国参拝をどう思うかと。
李纓監督は曖昧にお茶をにごし、逆に刈谷さんへ、初めて直接的な質問をした。

「そういう刈谷さんはどうなんですか?」
「戦争の犠牲者に哀悼するんならええと思う」

刈谷さんは健康的な笑いを見せた。

戦争の犠牲者に哀悼するならよい。
それで終わらせては駄目だと思うのか、それでいいと思うのか。
それを考えるための素材を提供しているのがこの映画だと思う。

刈谷さんは刀を作る職人である。
その刀が「靖国刀」であった。
靖国神社は刈谷さんの仕事場だった。
刈谷さんにとって靖国神社はいいも悪いもない。

戦争の犠牲者に哀悼するならよい。
そう考える人は結構多いかもしれない。
しかし過去の戦争を正当化しようとする人は、一部の政治家だけである。
右翼団体は正当化しようとしているわけではなく、正当だと信じている。
この違いに注目したい。

正当だと信じこまされる人が増えれば、正当化しようとする人の思う壺である。
映画の中で父親を戦争で亡くした浄土真宗の住職の話が出てくるのだが、含蓄があった。
「国が起こした戦争の犠牲者に勲章を与える。遺族は怒りの矛先を失う」

戦争の犠牲者に哀悼するならよい。
もしそれが共有できる意見であるなら、そこから話し合うべきである。
靖国神社であることが問題なのだから、そこを改善すべき。
靖国神社には大きな譲歩が強いられるが、今のままでは何もいいことがない。

李纓監督と刈谷さんのやりとりは時々ちぐはぐである。
中国人訛りの日本語は90歳のご高齢には聞き取りづらいのかもしれない。
また、刈谷さんの土佐訛りは私にも聞き取りづらい。

「休みの日にはどんな音楽を聴かれますか?」
「え?靖国?」
「いえ、休みの日・・・音楽・・・テープとか・・・」
「靖国のテープ?昭和天皇のならあるが・・・」
「聞かせてください」

テープから流れたのは東京オリンピック開会式における昭和天皇のスピーチだった。

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コメント 1

河野

http://jp.youtube.com/watch?v=GeD4oOClZDk&feature=related

これでも見て頭を冷やしましょう。
by 河野 (2008-06-15 12:23) 

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