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商業簿記と工業簿記 (商社とメーカーの発想の違い)

私は出版社で営業を担当しています。
出版社というのはメーカーです。
私は今の仕事が大好きです。
しかし、出版社に勤める前から疑問に思っていることがあります。

メーカーの営業はこんなんでよく通用するよな・・・

私はアパレル関連の問屋で8年、食品商社で3年勤めました。
ずっと営業。
それも大阪で。
自分は『商人』である!ということを常に意識して生きてきました。

そんな私もメーカーに勤めたことがあります。

大阪・生野の韓国食材メーカー。
メーカーの営業というものが全く受け入れられず3日で辞めました。

東京・新宿の食品加工メーカー。
メーカーの営業に疑問を抱きつつもメキシコの新規事業をまかされたので続けました。
が、メキシコから帰国した次の日に一方的に解雇されました。
理由は新規事業に進展が見られないため。
たった3週間で・・・と思いましたが、別に後悔もなく辞めました。
やさしくしてくれた派遣社員のおばちゃんだけが心残りでした。

茨城本社の水産加工メーカー。
やはりメーカーの営業に疑問。
でも総務課長が美人なので続けました。
本社で工場研修。
アフリカから商社経由で輸入されたマダコの加工をすべて体験し覚えました。
ゴールデンウィークに直営のタコ焼き屋で研修しました。
中国の舟山群島で1ヵ月半。
タコ加工自社工場研修。
この間、3ヶ月。
休みは3日。
中国から帰ったら部門長からのダメだしで解雇。
あんたが必要だと下げた頭はどれだっけ?
経理課長が社長の愛人だとわかったのであっさりやめました。(名誉毀損で訴えられるかな♪)

さて、私はメーカーの営業の何が疑問だったのか?

《《《 原価のわからんもんをどないして売るんや? 》》》

私のブログの愛読者はレベルが高いのでこれ以上は書く必要はないでしょう。

不思議なのはメーカーの営業員はそれが当たり前だと思ってる。
仕入部というのがあって原価管理は仕入部がやる。
営業は関係ないでしょう? って、本気で言ってんのか??

「商人」の原点に帰れと言いたい。
仕入交渉から販売、在庫管理、顧客管理、代金回収、督促、期日どおり支払わない顧客には心を鬼にしてねじこむことも商人なら当たり前である。

「ポッケの底でチャリンと音がするまでおまえの責任だ」
とは私を採用してくれた商社の社長の口癖。
失礼ながらメーカーの営業員にはその覚悟が全く見えない。

出版社もそう。

もっとも出版社はメーカーとはいえ、他業種のメーカーとは異なる事情がある。
ひとつには「再販売価格維持制度」の存在。
定価販売が事実上、ある程度義務付けられている。
これは需要の少ない専門書を発行する良心的零細出版社を自由競争から守るための制度。
ヨーロッパを中心に多くの国で採用されている。
つまり、原価を知らなくても営業に支障はない。
私も知らない。
教えてもらえない。
でも知りたい。
それでも知るべきだと思う。
まあ、いいや。

出版社の営業はおもしろい。
大変なことも多い。
でも、ある意味、かなり楽だというのが本音。

①価格交渉の必要がない。

あるとすれば対取次の正味交渉。
取次は数社しかないし、正味がころころ変わるものでもない。
日常は必要のない仕事。

②与信管理の必要がない。

全国にあまたある書店さんへの与信は取次さんがいるから必要ない。
書店さんに営業してもお金をもらうのは取次さんからだから。
取次さんがつぶれないかだけ心配してればいい。

③基本的に返品を受けるケースが多いので買う側に緊張感がない。

返品自由はある程度必要。
どんな田舎のどんな小さな本屋さんでも多くの本を並べられるのは返品が効くから。
もちろん流通コストを下げるため返品を少なくする努力も必要。
しかし結果的に出版社の営業は『売るため』の前に『置いてもらうため』になり厳密な実売ではない。
つまり、楽。

大きく以上の3つが言えると思います。

集会に行って2万円しか売れなくても、
「宅急便代が1万円としたら損はしていないんじゃない?」
とか真顔で言う人がいてびっくりした。

その人の言う『損はしていない』というのはどういう意味なのでしょう。
2万円の売上のうち1万円が往復の宅急便代としたら残りは1万円。
そっから売上原価や販管費を差っぴいて、それでも損はしない???

製本屋さんや印刷屋さんへの支払い。
紙代。
倉庫会社の入手庫料、倉賃。
人件費。
自分だけでなくそれを支える人たちの労働の対価も考えるのが商人なら当たり前。
自分は休日出勤の手当てもらってなくても代休とったら同じこと。
代休返上したって自分の労働に対して自分の取り分を考えてコスト計算するのは常識のように思えるのだがどうだろう。

そんなこんなと、出版社に限らずメーカーはみんなそうだという話をカニ助氏にしたら、彼も同じ疑問を持っていた。
ただ、即座に出てきたコメントに思わずひざを打ちました。

「それはリスちゃん、『商業簿記』と『工業簿記』の違いだよ」

商業簿記は売上原価がある程度一定だが、工業簿記の場合は製造原価で考えるから原価が流動的で把握しにくい、とかいうような説明でした。
私は商業簿記しか習ってないから工業簿記のことはわかりませんが、長年の疑問の根っこが見えた気がします。

「頭がいい」とはどういうことか?
などとよく話題にされます。
いろいろあるとは思いますが、そのひとつに、物事の本質を瞬時にとらえる能力があると思います。
そしてまた、人の投げた球に対し、瞬時に気の利いた球を投げ返す能力でもあるでしょう。

工業簿記、勉強せなあかんな。


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コメント 3

スナフキン

ずいぶんいろいろな経験をされてきたのですね。
どんな営業でも、当然原価は知らされているものだと思っていた私には、意外な実態でした。
 一つ参考までに教えてほしいのですが、書店からの返品コストはどちらが持つことになっているのでしょうか。
 「商業簿記」と「工業簿記」ですか。そんなものがあることさえ、知りませんでした。これをきっかけに少し勉強してみます。
by スナフキン (2006-06-09 07:19) 

リス太郎

ですよね?コスト計算の出来ない営業って、いったいなんなんだ?経営者と同じ感覚を持てと言っても、土台、無茶な話です。このテーマはスナフキンさんからコメントいただけることを期待してました。(笑) また、機会を見て深く掘り下げて考えたいです。スナフキンさんもご自身の経営哲学なども興味あります。
さて、書店の返品コストですが、これは書店が持つのが一般的です。書店への配本は取次と呼ばれる本の流通会社の仕事で、当然、取次側のコストになります。例外的なケースもありますが、納品は取次、返品は書店と考えていいと思います。書店さんも大変です。私は町の小さな書店さんを特に応援したい気持ちが強く、それに関連したビジネスが何かないか考えています。
本の世界の話は、書店の店長を長く勤めた経験のあるmayfeir氏(私のブログ師匠)がめちゃくちゃ詳しいです。よろしく。
by リス太郎 (2006-06-10 06:32) 

もん

商業簿記は一級をとるのに工業簿記を勉強しないとなりませんが、
阿呆鳥が脳内を飛んでいくような感覚でした。
by もん (2007-07-05 18:01) 

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