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酔平版『代書屋』口演録 第19回歴懇芸能部落語会(2011.11.26)

もうかった日も 代書屋のおなじ顔   四代目 桂米團治

もうかって なくてもやはり おなじ顔   初代 扇好亭酔平

急ぐべからず。

          ■

何をしゃべりましょうかね?会社やめてからおもろい話がないもんで。(爆笑)

          (マクラ省略)

客「すんまへん。お宅、代書屋はんでっか?」
代書屋「へぇ、うちは代書屋です」
客「あの、あれ書いとくなはれ、ギレキショとかゆうやつ」
代「あぁ、履歴書でっか。書かしてもらいます。どうぞそこへお掛けになって…するとなんでっか、今度また、就職でもしなはる?」
客「いや、そんなんせえしまへん。ちょっと勤めに行くだけ」
代「…それを就職といいまんねんけどな…まずは本籍ですが、本籍はどちらです?」
客「えぇ、わたい、本好きでんねん。ジュンク堂に紀伊國屋、旭屋とか…」
代「誰がそんなこと聞いてまんねん。本籍ゆうたらあなたの生まれたとこです」
客「それやったら日本橋」
代「大阪市浪速区日本橋…」
客「三丁目」
代「三丁目」
客「二十六番地」
代「二十六番地」
客「風呂屋の向かい」
代「風呂屋…風呂屋はどうでもよろしいねん。別に向かいが風呂屋でも散髪屋でもかましまへん…で、お名前は何とおっしゃいます?」
客「日の出湯いいまんねん」
代「…誰が風呂屋の名前を聞いてまんねん。あなたのお名前です」
客「あぁ、わたいの名前でっか。わたい、片岡鹿蔵いいまんねん」
代「えぇ…片岡鹿…ちょっとお尋ねしますけどね、鹿ゾウさんのゾウという字はクラという字ですかそれとも数字の三という字ですか?」
客「そらもう、あんたにおまかせしま」
代「まかしたらどんなりまへんがな。あなたのお名前でっしゃろ…で、生年月日をお願いします」
客「へえへえ」
代「いや、へえへえやなしに、生年月日」
客「そうです」
代「いや、そうですて…生年月日をゆうてもらわんことにはどもなりまへん」
客「生年月日はたしか…なかったように思います」
代「…生年月日のない人がおますかいな…生年月日というのはつまり、あなたの生まれた日ィのことですがな」
客「あぁ、わたいの生まれた日ィのことでっか?何にも覚えてまへんなぁ」
代「そら覚えてへんやろけど…どないゆうたらわかるんやこの人は。大体あんさんおいくつですねん?」
客「わたいの年?26でんねん」
代「…26?…26にしては老けてまんな。ほんまに26でっか?」
客「間違いおまへん。うちの親父が亡くなるときにゆうてました。“お前ももう26や、しっかりせぇ”ゆうて…」
代「…それはお父さんが亡くならはった年の話でっしゃろ?お父さん亡くなって何年になります?」
客「さあ、それでんねん。月日の経つんは早いもんで、もう20年になりま」
代「…いや…もうよろし…こっちで調べまっさかい…あのね、教えといたげまひょ。あなたもう46です。もうちょっとしっかりしてもらわなどんなりまへんで…で、何月何日のお生まれでっか?」
客「えーっと…秋の彼岸の中日の明けの日」
代「けったいな覚え方しなはんな。自分の生まれた日ィぐらいすっと言えるようにしときなはれや…次に学歴ですが、学歴はどないなってます?」
客「なんです?」
代「学歴」
客「…いや…わたい、踏み絵とかしたことないん…」
代「…それは隠れキリシタンでっしゃろ…どんな耳してまんねん。学歴とゆうたら学校のことです」
客「あぁ、学校でっか。学校はもういてぇしまへん」
代「当たり前やがな…46にもなってランドセル背負って学校行ってるおっさん珍しいわ…そうやなしに、昔行ってはった学校がおまっしゃろ?」
客「それやったら小学校」
代「ですから何という小学校?」
客「尋常という小学校」
代「わからん人やな…本籍地内小学校卒…あ、ちょっとお尋ねしますけどな、あんさんこれ、卒業しなはったやろな?」
客「あなどってもろたら困りま。2年で卒業」
代「2年しかいてぇしまへんのん?それやったら卒業やなしに中途退学とこない言いまんねん」
客「そないゆうてもらえると体裁がええ」
代「何の体裁がええことおまっかいな…次に職歴やが…ま、職歴とゆうてもわからんやろさかい…つまりなんだんな、あなたが今までやってきたお仕事、これを最初から順々にゆうてもらえまっか?」
客「え?それみな言いまんのん?大層やなぁ…ちょっと待っとくなはれや、思い出しまっさかい…あれはたしか…提灯行列の明けの年でっか」
代「と言いますと昭和四年でっか…」
客「あの提灯行列のとき、“おい、お前も今日から若いもんの仲間入りやぁ”言われて、“奉祝”と染め抜いたそろいのハッピ着せてもろて、提灯こう持ちますやろ、チョイトチョイトコリャコリャチョイトチョイトコリャコリャ」
代「店ん中で筆ふりまわしたらどんなりまへん。そこら墨だらけでんがな。筆をこっちィ返しなはれ…提灯行列はどうでもよろしいねん」
客「どうでもええて、あんとき提灯の火ィ借りたんが縁でうちのよめはんとお宮さんの裏で…」
代「知りまへんがな…のろけてる場合でっか。で、場所はどこです?」
客「玉造の駅前でんねん。六軒長屋の三軒ずつ向かい合わせの東側の真ん中で、あんときたしか家賃が…」
代「いや、家賃まではよろし。余計なこと言いなはんな。…玉造駅前にてと…で、何をやんなはった?
客「友だちが巴焼きの道具空いてるさかい使わへんかゆうてくれて、ほんで借りに行ったんでっけど長いことつこてへんさかいえらいサビついてまんねん。金もん屋で紙やすりこうてきてよめはんとふたりでサビ落とすんに丸二日…」
代「も、いらんこと言いなはんな…巴焼きとは書けんさかいな…饅頭商を営むと…こないしときまひょか…で、これはいつまでやんなはった?」
客「いや、これやろう思うたんでっけどな、家賃高いさかいやめたん」
代「や…やめた…いや、これ、もう書いてしもてますねん…消したら汚ななりまっしゃろ…こういうもんは先さんへ出すもんでっさかい、気ィつけてゆうとくなはれ…一行抹消…判もってなはるか?消印がいりまんねん。こっち貸しとくなはれ………あのねぇ、思ただけやなくほんまにやったことをゆうとくなはれ」
客「ほんまにやったんならその年の暮れですわ」
代「えぇ…その年の十二月…。場所はどこです?」
客「えーっと…あれはたしか、一六が平野町やったかな…二七が阿弥陀池…」
代「ちょ…ちょっと待っとくなはれ。その一六とか二七とかゆうんは何です?」
客「わたい夜店出しやってましてん」
代「あぁ、そうでっか。それやったら場所はよろし。露店営業人としてと…これは何を売りなはった?」
客「ヘリドメ売りましてん」
代「あぁ、着物の衿を止める衿止めでっか」
客「いや、よう聞いとくなはれ。ヘリドメでんねん」
代「ヘ…ヘリドメて何です?」
客「下駄の歯ァの裏に打つゴムでんねん」
代「…けったいなもん売ってなはったんやなぁ。あれ、ヘリドメいいまんのん?下駄の歯ァの減るん止めるさかいヘリドメでっか」
客「ゆうといたげますけどな、あんなもん買いなはんなや。打ったかてすぐとれる」
代「誰が買うかいな、そんなみみっちいもん。…ヘリドメではわからんやろさかいなぁ…履物付属品を販売すと…こないしときまひょか。ほんでこれはいつまでやんなはった?」
客「これはほんまに店だしてやりましてん。ところが十二月でっしゃろ?寒いでんがな。北風ぴゅーぴゅー吹くし。人はだぁれも通らへんし寒いし腹減るし。アホらしなって2時間でやめましてん」
代「に…2時間でやめた?…あのねぇ…また消さんならん…消してばっかりや…一行抹消…判をもっぺん貸しとくなはれ…いや、あのね、どうないゆうたらわかります?2時間とか思ただけとか、そんなんどうでもよろしいねん。ほんまにやった仕事をゆうてください」
客「それやったら出版社」
代「あんさん出版社に勤めてなはった?場所はどこです?」
客「上野の湯島でんねん」
代「東京都千代田区外神田六丁目九番地●号…」
客「えらいよう知ってまんな」
代「ここの社長よう知ってまんねん。石●さんゆうてワガママが服着て歩いてるような人ですわ…ほんでこれはいつまでやんなはった?」
客「これはほんまのほんまにやりましてん。ところが入った初日に組合ゆうのに誘われましてな、これにも入ったん。そしたら次の日にクビになって…」
代「…あのねぇ…ええ加減にしなはれや。一日や二日でやめたことはどうでもよろしいねん。それからどないしましたん?」
客「次の日から毎朝会社の前でビラ配り。天気のええ日は梓会のビルの前まで行って配りまんねん」
代「そんなこと履歴書に書けまっかいな…他におまへんのか?」
客「トラをやりましたん」
代「…トラて何です?」
客「あんたトラ知りまへんか?ネコのおっきいやつ」
代「いや、トラは知ってまっけどな。トラをやってたというのはどういうことです?」
客「これはわけ言わなわからしまへん。移動動物園おまっしゃろ?あそこの人気もんのトラが死にましてん。トラは死して皮残すゆうて、誰ぞこん中入って動いたらわからんのちゃうかゆうて。悪いこと考えるやつがいてまんねん。そやけどそんなんする物好きなやつおらへんでぇゆうてるとことへわたいんとこ話が来まして。ほんでやらしてもろたようなわけで…」
代「…なんやその話、ほん弥師匠の落語で聴いたことありまんな。あれ、あんさんでっか?」
客「えぇ、わたいでんねん。あれも大変でっせ。聞いてないのにトラとライオンの一騎打ちとか言われて。わたいオリん中でブルブルブルブルふるえてましてん。そしたらなんと、ライオンの中にも人が入ってまんねん」
代「いや、その話は落語で聴いて知ってまっけどな。…しかしトラて…どない書いたらええか…まぁ、移動動物園にてと…そうでんなぁ…猛獣の皮をかぶりてと、大衆に見物さしむると、こないしときまひょか。それでこれはいつまでやんなはった?」
客「やりましたがな、これ。ところが次の日、お客さん、だぁれも来ィしまへんねん。退屈やさかいオリん中でタバコ吸うてましてん。そしたら隅っこのほうでちっちゃい女の子が見てましてな。えらい大騒ぎになって。次の日の歴懇スポーツに大見出しで、“ニコチン中毒のトラ”」
代「…ほんでまたクビになったんでっか?」
客「いや、これは始末書ですみましてん」
代「で、そんなアホな仕事いつまでやりなはった?」
客「ところがその次の日にまたおんなじことやって、始末書2枚でクビ」
代「一行抹消」
客「判はここに」
代「こっち貸しときなはれ、ほんまに…もっとまともな仕事おまへんのか」
客「それやったらタクシーの運転手」
代「場所はどこです?」
客「京都の深泥池でんねん」
代「えぇ…京都市北区上賀茂深泥池…」
客「夏の日の雨の晩ですわ。わたいちょうど深泥池のとこタクシーで流してましてん。そしたら雨ん中、女の人が傘もささずに立ってまんねん。手ェあげてタクシー止めまっさかいな、わたい、乗せたげましてん。ところがしばらく走って、ふとバックミラー見たら、その女の人の姿がおまへんねん」
代「…あんさん、そら…ひょっとして幽霊とちゃいまっか?」
客「そう思いまっしゃろ。ところがちゃいまんねん。その女の人、シートの下はいつくばって、“10円玉おとした~”ゆうて」
代「あのねぇ…そんな小噺はどうでもよろしいねん。…大体あんさんの本職、これでご飯を食べてきたというお仕事は何です?」
客「それやったらわたい、ガタロでんねん」
代「…ガ…ガタロ…ガタロて何です?」
客「あんたガタロ知りまへんか?胸のあたりまである長靴はいて、川ん中ゴボゴボ入っていって、こォんな大きな金アミで川底すくって、鉄骨の折れたんやら釘の曲がったんやら選ってる人おまっしゃろ?」
代「あぁ、いてはりまんな。あれ、ガタロいいまんのん。ガタロ…いよいよ書きようあらへん」
客「どうです、そこ、ガタロ商を営むと…」
代「ガタロ商てな商がおまっかいな…川の中…川の中に…」
客「川の中に勤めると」
代「あんた黙ってなはれ…川の中に勤める人がおまっかいな…あ、河川にか…河川に、埋没したる、廃品を回収し、生計を立つと、こないしときまひょ」
客「うまいもんだんなぁ。生計を立つとシューッと立ってるとこがよろしいなぁ。なんでしたらその根元にヘリドメと巴焼きも植えといてもらえまへんか?」
代「そんなややこしいもん植えられまっかいな」
客「それと昭和25年2月5日でお願いしま」
代「そうゆうふうにポンポンとゆうてもろたらこっちも書きいいんですわ。これは場所はどこです?」
客「浅草でんねん」
代「東京都台東区浅草にて…何をやりなはった?」
客「友だちの松ちゃんと初めてストリップに行きましてん」
代「………あのね…あんさんちょっと、アホちゃいまっか?…どこぞの世界に初めてストリップに行ったてなこと、履歴書に書く人います?」
客「それぐらいのこと書いとかんと読む人がおもろない」
代「こういうもんはおもろなくてよろしいねん…も、もうよろし…よろして…あんさんの言うとおり書いてたらしまいに何書かされるやわからん…ごちゃごちゃ言いなはんな…こっちでええ加減に書いときまっさかい…それと賞罰はおまへんな?」
客「正月は年に1回おます」
代「正月やあらへん、賞罰。悪いことして警察の世話になったとか…なかったらよろしなかったら…ごちゃごちゃ言いなはんな…ほめられたこともおまへんな…」
客「ちょ…ちょっとまっとくなはれ。ほめられたことやったらいっぺんだけおま。こォんなおっきい賞状もろて新聞に写真入りで出たん」
代「そうゆうことをここへ書いとかなあきまへんねん。それはいつのことです?」
客「おととしの秋でんねん。歴懇スポーツ主催の大食いの会がありましてな。こォんなおっきいぼた餅、わたい86食べましてん。これは珍しいゆうてこォんなおっきい賞状もろて、次の日の歴懇スポーツに写真入り…」
代「そんなアホなことが書けまっかいな」

おなじみの代書屋でございます。

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リス太郎

ゆゆちゃんへ
ほんまに読んだん?(笑)
by リス太郎 (2011-12-17 12:15) 

ゆゆ

読んだよ~
でも落語って読むもんじゃないね(笑)
by ゆゆ (2011-12-17 20:52) 

リス太郎

そのとおり。やるもん。
by リス太郎 (2011-12-18 13:25) 

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