SSブログ

今の中国を正しく理解するための本

営業先の丸善日本橋店で大量に平積みされた文庫本が目に留まった。
「今の中国」がわかる本・・・
今さらそんなもん読んでも・・・
これを「驕り」という。
早速買って帰ってひと晩で読み終えた。

書店の店頭を覗けば中国に関する本があふれ返っている。
私が中国語を勉強していた学生時代(80年代後半)には考えられない。
しかしその傾向の偏り具合にはいささか閉口する。

「中国脅威論」なるものが大手を振ってまかり通る。
本当はもっと違う視点、多様な観点から書かれた好著もある。
しかし売れ筋がそういう傾向だからなかなか店頭に並ばない。
書店といえども商売だから、そういう意味では仕方ないと思う。

「中国脅威論」を全く否定するつもりはない。
そういった類の本に価値がないとも思わない。
私自身、そういう本も読んでいる。
私の考えとは大きく違うが、そこで指摘されている「事実」に全く目を向けないのも困りものだ。

しかし実に幼稚な「脅威論」もある。
ブログで展開されているものなどはほとんどがそうだ。
しっかりした「脅威論」であれ幼稚な「脅威論」であれ、私の「脅威論」に対する反論は単純明快だ。

「脅威」ばかりに目を向けて「チャンス」を逃すなということ。
物事はすべて複数の側面を持つ。
中国経済の台頭は「脅威」でもあるが「チャンス」でもある。

国家間の交渉事に緊張はつきものである。
利害がすべて一致することなどあり得ない。
それを解決するのが外交であるのに、最初から「脅威」ばかりを強調してどうなるのか。

経済における互恵関係を構築することで友好や信頼も築かれる。
いつも言うのだが中国にとって日本は最も大事な貿易相手なのである。
また日本にとっても中国はアメリカと並んで大事な貿易相手だ。
市場としての中国はまだまだ未開拓である。
日本企業が活躍する余地は十二分にあるというのに、「脅威」もへちまもないものだ。
「脅威論」は平和外交の理念に反しているばかりではなく、国益にも反している。

中国について一般向けに書かれた良書はないかと考える。
あまりにも日本人は世界中が注目する隣国を知らないからだ。
岩波ジュニア新書から『中国を知る』という本が出ている。
ジャーナリストの田畑光永氏の著作だ。
ニュースキャスターとして活躍していたのでご存知かと思う。

「ジュニア新書」は子ども向けのシリーズだが、大人が読んでも勉強になる。
私もよく図書館で借りて苦手分野の知識補強をしている。

この本は1990年、第二次天安門事件の直後に書かれ、出版された。
天安門事件への鋭い洞察から始まり、中国の歴史を日本との関わりを軸に解説している。
そしてこれからの日本人が中国とどう向き合っていくべきかについて提言している。
田畑氏の文章は実に読みやすく理解しやすい。
読んだ後に何故かほろりとした感動があった。
中国通を一掃してしまった自民党の政治家どもは国会図書館で借りて読んでほしい。

今日、紹介したいのは田畑氏の本ではない。
三笠書房の「知的生きかた文庫」の新刊書、『「今の中国」がわかる本』である。

著者の沈才彬氏は三井物産戦略研究所中国経済センター長である。
大学在学中に文革が始まり農村へ下放されている。
思想改造のための強制労働である。
その後、社会科学院大学院で修士課程を修了し、東大や早大などで研究員をした後、現職となる。

エピソードを多用し、ときにはご自身の経験も披露してくれるので面白く読める。
ちょっと鄧小平を持ち上げすぎな気もする。
「今の中国がわかる」と言うわりには書き足りない事象が多い。
第二次天安門事件など民主化運動についての記述が少ない。
チベットや新疆ウイグルの独立運動については全く触れていない。
書きたくても書けないのかもしれないが。

沈氏はエコノミストなので経済の話が中心である。
しかし政治の話も社会問題の話も、経済がわからなければ論じることはできない。
また、解決方法を見出すこともできない。
中国を正しく理解するために是非読んでほしい一冊として推薦したい。


nice!(3)  コメント(9)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 9

もん

>「脅威」ばかりに目を向けて「チャンス」を逃すなということ。
やー、いぐざくとりー。
貴殿の記事や私感に触れていると、「あの国家とだけは国交断絶すべし!」の日頃の己の言動が多少なりとも矯正、拡張されていくよな気がするね。根本的には私の思想は変わらんものですが、「多方面、多角的に大局を捉える機会を逃がさず、そののちに言するべき」という持論にはいたく染みこむ。以上、これは国家体への思いだけであって、周囲の中国人たちとの個としての人間関係は良好です。今までの中国に対する記事の中では一番素直に真っ直ぐ読めた。ありがとう。
by もん (2007-04-15 19:49) 

リス太郎

もんちゃんへ
ただね・・・「経済効果」や「国益」ばかりを金科玉条のごとく唱えて中国と手を組むべきだとする論は大嫌いやねん。まあ、自分の主義主張を大事にしながら人の意見もしっかり聞ける柔軟性を失いたくないと思うけどね。あなたは主張が違うのに面白がって遊んでくれるので非常に嬉しく思っています。でも「珍小」はやめてね。(笑)
by リス太郎 (2007-04-15 20:28) 

めぎ

脅威って・・・日本は歴史以前から中国の脅威に対抗して頑張ってきたんじゃないんでしょうか。中国に負けない、中国みたいに高い文化になりたい、中国とは違う国家を作りたい、そんな色々な思いが日本という国を作って行ったような・・・2000年くらいかけて。今更「脅威」なんて、そんなの古いですよ。いや、古すぎる・・・なんだか大化の改新の頃みたいですよ。
by めぎ (2007-04-15 20:51) 

もん

よくよく分かります。どうも近年、教科書にしろ参拝問題にしろ経済交易にしろ、目先三寸的なことが多くて、地球規模やこの先に織りなすべき人の公益論にならんことを哀しく思っている。私らの遺伝子はあとせいぜい長くて50年。その後に継がれる世代や国家に責任とらんで棺桶に入るは勝手なんだけどね。あまりに馬鹿馬鹿しくて。
>「珍小」はやめてね。(笑)
相分かった、珍虚兄。
by もん (2007-04-15 21:31) 

リス太郎

めぎさんへ
それが「脅威論」をふりまわす輩が多いから不思議やねん。そんなことをいちいち脅威、脅威と騒いでたらヨーロッパ諸国はどうなるんだって。
by リス太郎 (2007-04-15 21:51) 

リス太郎

もんちゃんへ
それもやめろ!!! (いいかげんにしてくれ~・・笑)
by リス太郎 (2007-04-15 21:52) 

もん

はい、お遊びはおしまいにします。ぺこ。
by もん (2007-04-15 23:32) 

リス太郎

もっとして~ あへ~
by リス太郎 (2007-04-15 23:50) 

もん

アホやろ(笑)
by もん (2007-04-16 01:05) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0